「標準和名は、日本において学名の代わりに用いられる生物の名称であり、発音がしやすいこと、意味を容易に理解できること、記憶しやすいことなど、一般的になじみがない学名の短所を補う便利なものとして、対象とする生物やその関連分野の研究の進歩や普及、教育に大きく貢献してきた」[日本魚類学会標準和名検討委員会(2003年3月設立)の要項より(魚類学雑誌, 50: 92) ]
 水産物の流通過程においても、標準和名が使用されることが望ましいことはいうまでもない。しかしながら、実際の流通過程で標準和名が使われることは少ない。これは外国産魚類の場合には特に顕著で、業界名・流通名・商品名など様々な名称が使用されているのが現状である。
 ところで、食用に輸入される外国産魚類については多くの種に標準和名が与えられているが、日本産魚類**の場合と異なり、種と標準和名が必ずしも一対一に対応していない場合が少なからずみうけられる。既に標準和名があるにもかかわらず、後の出版物において既存の標準和名について何ら検討されることなく、(その結果、独立して)新たに標準和名が提唱されたことがその原因である。このように、既存の標準和名についての議論がなく新標準和名が提唱された種については、標準和名の場合には学名の取り扱いの際の先取権の原理***がないので、現時点では、複数の標準和名が通用しているとみなさざるを得ない。同一種に対して複数の標準和名が通用しているという現状は、よく知られた種であればともかく、なじみのない外国産魚類では甚だ不都合である。

 本報の目的は、食用に輸入される外国産魚類の標準和名を紹介することである。さらに、複数の標準和名が通用していると考えられる場合には、その魚種の適切な標準和名を選択するための基礎資料を提供することである。


*本稿は『輸入される外国産魚類の標準和名について(第3版)』[ おさかな普及センター資料館年報24号 (2005) : 11-21 ] を増補・改訂したものである。
**ここでいう日本産魚類は、『日本産魚類大図鑑 第2版』(益田他編, 1988)や『日本産魚類検索 全種の同定 第二版』(中坊編, 2000)に掲載されているものを指す(ニジマスなどの移入種も含まれる)。たとえば、天皇海山からのみ報告されているオキカサゴやベニメヌケは日本産であって、外国産魚類には含めない。また、北部北大西洋で漁獲されたものがアイスランドやノルウェーなどから輸入されるカラフトシシャモ、中国などから輸入されるハモ・マアナゴなども同様に外国産魚類に含めない。
***同物異名(1つの種に複数の名称が与えられていること)や異物同名(異なる種に同じ名称が与えられていること)を処理する場合、より古い名称が優先されるという原理。学名は、国際命名規約にのっとって、この原理により処理される。標準和名の場合には、このような規約はない。しかし、別種と思われていたものが同一種(たとえば雌雄)であることがわかった時には、先に発表された名称が優先されることが多い(中坊, 2000; 瀬能, 2002を参照)。


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